当社は、血栓止血のかかわる病気に対する革新的な検査技術や医薬品の創出を目指しています。血栓研究の中で着目しているのが、血液凝固の開始初期に起こる活性型の血液凝固第X因子(FXa)と第V因子(FVa)の形成機構です。
FXaは、活性型の血液凝固第V因子(FVa)とプロトロンビナーゼ複合体を形成してプロトロンビンを活性化し、トロンビンを形成する重要な血液凝固因子です。FXaをターゲットにしたdirect oral anticoagulants(DOACs)と称される抗凝固薬が登場し、脳梗塞や静脈血栓症の治療において広く使用されるようになった事から、FXaの形成機構の解明はますます重要になっています。
組織因子(tissue factor, TF)が活性型の血液凝固第VII因子(FVIIa)と複合体を形成しFXを活性化させ、FXa を生成することは良く知られています。最近の研究から、生成したFXaがFVIIa-TFから遊離して完全な活性化型に変換する前に、一過性ではありますが、FVIIa-TFと複合体を形成したまま、つまりFXa-FVIIa-TFの3量体の状態で、酵素活性を発揮することが明らかとなりました。例として、FXa-FVIIa-TF がprotease-activated receptor 2 (PAR2) という細胞膜レセプターを切断し、活性化すると報告されています(Blood 130: 1604-1605, 2017)。
FXaは活性型の血液凝固第IX因子(FIXa)の作用によっても生成します。このFXaの生成には、FIXaの補酵素である活性型の血液凝固第VIII因子(FVIIIa)の存在が不可欠です。これまでFVIIIa は、トロンビンによるFVIIIの活性化を通してのみ生成するというセオリーが主流であったことから、FIXa-FVIIIaによるFXa の形成は血液凝固反応の初期ではなく、凝固反応が増幅されトロンビンが過剰に産生される際に起こると考えられていました。しかし最近になって、FVIIIの活性化にTF 経路が関与することが明らかとなり、またFIXaがFVIIa-TF の作用によって生じることから、凝固反応の初期においてもFIXa-FVIIIaによるFXの活性化は起こっていると考えられます。
Selective factor VIII activation by the tissue factor-factor VIIa-factor Xa complex. Blood.130(14):1661-1670, 2017
トロンビン形成(産生)試験は、包括的な血液凝固検査の一つであり、近年血液凝固の異常を調べる新たな検査システムとして注目されています。当社は、代表の神窪が発見した新たな血液凝固メカニズム*を基にして、従来の試験法を大幅に改良した高感度の微量トロンビン形成試験を構築し、専用の試薬キットを開発しています。
血液凝固の初期に形成する微量のトロンビン量を調べる血液凝固検査として、当社ではSMAT®(Smart Analysis of Thrombin Production)と呼んでいます。
※Blood. 130(14):1661-1670, 2017より